WEB小説-石川ユーリオ

石川ユーリオのオンライン小説

伝説の勇者なりきり部の奴ら:第2話 契約

 若者はまばゆい光に包まれたような不思議な気分になってさ。しだいに目が半開きになると気を失い地面に倒れたんだよ。それは夜の繁華街で酔っ払いが路上で寝てしまうようなね。ごくごくありふれた日常に道行く人たちには思えたかもしれない。

 

 何せ、老婆の姿はもうそこにはいなかったのだから……。若者はとある文学好きの神様の祝福を受けとなったんだよ。その証拠に落選続きが嘘だったかのようにさ。若者は出版社に送った小説がカクカク文学大賞を受賞してね。見事に作家デビュー果たしたんだよ。

 

 処女作「はてしない英雄物語」を上梓したんだ。

 小説の内容は、はてしない国に住む魔王ハンプティを討伐するために伝説の勇者たちが集い、数々の困難を仲間たちと助け合いながら進んでいく物語なんだけどさ。カクカク文学大賞史上、累計1億万部の空前の大ヒットを飛ばし、映画化もされたんだよ。

 

 若者は一躍有名人となり、文学だけで食べていけるようになったんだ。若者は下積み時代を支えてくれた恋人みゆにね。

「みゆ、やっと小説だけで食えるようになったよ。今まで下積みを支えてくれてありがとう。本当にありがとう。僕はみゆなしでは生きていけない。だから僕と結婚して欲しい。ずっとずっといっしょにいて欲しいんだ」

 とプロポーズしたんだ。恋人のみゆはニッコリ微笑むとね。

 

「神宮寺のぼるさん、私はあなたが小説でいつか成功するってずっと信じてたわ。ずっとずっと信じていたわ。だから私はあなたの妻になります。ずっといっしょよ」

 なんて、声を震わせながら言ったんだよ。みゆの瞳は涙が溢れだしていたんだよ。みゆは小説一本でやろうとしていた神宮寺のぼるをさ。陰ながら応援し、ずっと信じている女性だったんだ。

 

 のぼるが書いた小説の原稿をね。いち早く読んでくれる最初の読者はみゆでさ。昼間、みゆは安月給のOLをしていたんだよ。生活もカツカツで、時には一杯のインスタントラーメンを2人で分け合って食べることもあったんだ。

 

 お腹を空かせた2人はパン屋に行ってね。

「いらないパンの耳があったら私たちにください」

 なんて、パン屋の主人に交渉しにいったこともあったんだよ。生活のためならばプライドまでも捨てる覚悟をみゆは持ち合わせた女性だったんだ。もうね、神宮寺のぼるのプロポーズはさ。つらいつらい2人の冬物語にピリウドを打ち、素敵な春が訪れようとした瞬間だったのかもしれない。

 

 こうして、神宮寺のぼるとみゆは結婚したんだけどね。みゆのお腹には新しい生命マモルが宿ったんだよ。2人して生まれてくる我が子に喜んでさ。こうして幸せな日々は過ぎていく。信じる者は救われるのかもしれない。だって神様って本当にいるのだから……。




 神宮寺のぼるとみゆが結婚し、18年の月日が流れた……。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 とある文学好きの神様と神宮寺のぼるの出会いから18年の月日が流れた。ここはごく平凡な地球ちきゅう。舞台は地球となります。それでは伝説の勇者なりきり部の奴らはじまり、はじまり~。



 黒髪の小柄な制服姿の少女がね。今まで見たこともないとびっきりの笑顔で呼んでいる。もうね、はちきれんばかりのロリータフェイスなんだよ。反比例なまでの身体の作りってありなのかと消費者センターに問い合わせをしたいほど、これまたはちきれんばかりの……。うひゃ、鼻血でちゃったよ。

 

 少女の名前はひかるちゃんって言うんだけどさ。幼馴染の隣同士、同じ高校なんだよ。

「今から行くぜ。ひかるちゃーん!」

 俺はひかるちゃんめがけて走りだしたんだどね。厳密にははちきれんばかりの2つの巨峰めがけてなんだけど、もうね、暴走機関車トーマスなみの突撃だったんだよ。今日から荒ぶる暴走機関車トーマスと名乗ってもいい。そんな風に浮かれながら走っているとさ。奇妙な感覚にとらわれたんだ。

 

 あれ? おかしいな。いつから2本足じゃなくて4本足で走っているんだろう。おいおい、そんなのどうでもいいだろ。今は両手を広げて俺を待っているひかるちゃんに飛びつきたいだろ。え? 飛びつきたいって?

 

 ひかるちゃんにそんなことをしたらね。小柄なひかるちゃんは倒れちゃうだろ。ひかるちゃんは小柄で目がくりっくりしていてさ。女性特有の良い香りがしてくるし、何つーか汚れを知らないキュートなショートカットが似合う女の子なんだよ。

 

 そんなひかるちゃんを優しく抱きしめたいだろ? この幸せものが~。これから俺とひかるの恋物語ラブコメがはじまるからね。そうなる運命だということは、この世界の中心に2人が生まれた時から分かっていたことなんだよ。

 

 ごらん、あれが2人の住まいだよ。お互いに実家暮らしの隣同士だけど……。いずれ何年か経ったらお互いに実家を脱出してさ。2人で愛の巣を作ればいいんだよ。ふふふ。ここにいる庶民らに伝えなければいけないね。ごめん、俺らリアじゅうだから……。

 

「なんて幸せなんだワン!」

 

 ワン? あれ?

 

 今、ワンって言ったような。

 

 あれれ?

 

 リア充(じゅう)じゃなくてリア獣(じゅう)?

 

「リアじゅう、ワンワンワン!」

 

 俺って犬みたいな鳴き声だしてたっけ? 普段は真面目なサラーリーマンが家に帰ると妻に向かってさ。

夫「ただいまでちゅ♪」

妻「おかえりでしゅ♪」

夫「ごはん食べたいでしゅ♪」

妻「わかりまちゅた♪」

夫「いっしょにお風呂入りたいでしゅ♪」

妻「いやーんでちゅ♪」

 なんて、いきなり幼児言葉オンパレードみたいなのりか。それはそれで怖いけど、それの犬バージョンと考えれば納得できる……はず。何か無理がある設定だな。かなりおかしい展開かもしれないな。

 

「ポチー、おいでー?」

 なんて、ひかるちゃんが優しい声で俺を呼びかけるんだけどさ。どう見ても俺に向ってポチと言ってるんだよ。ポチはひかるちゃんの飼っている犬の名前だからね。俺じゃないはずなのに、それでも俺は、

 

俺「ワンワンワン!」

ひかる「ポチー、早くー」

俺「ワンワンワン!」

ひかる「ポチー」

 

 何だこのやり取り! どんなドッグプレーだよ。しかも嬉しそうに俺ワンワン吠えてるじゃねぇか。もはや日本語を忘れてしまうほど恋に没頭しているのだろうか。リア獣(じゅう)なだけに。一瞬、周りが沈黙し、俺の渾身のダジャレが失敗に終わったような気がしたよ。

 

 ごめんだワンッ!

 

 笑点の山田くーん、座布団取らないで~。俺は打たれ強いから相手を白けさせても大丈夫。ふふふ。何か俺、やばい主人公みたいだな。気を取り直してさ。まるで獣のように見慣れた道路をひかるちゃんめがけて4本足で走っていたんだけど、おもむろに立ち止まったんだよ。そして、後ろ足をあげてシャーと気持ちよさそうにね。電信柱にあるものをしてしまったんだよ。

 

 ぶっちゃけると俺はおしっこをしはじめたんだ。もうね、ひかるちゃんの前で下半身丸だしってさ。単なる露出狂じゃねぇかよ! ジョボジョボジョボと電信柱におしっこがとめどなくかけられていくよ。やばいよね、俺。しかも、どこか遠くからひかるちゃん以外の誰かが呼んできたんだよ。

 

「マモル~」

「ん?」

「学校遅刻しちゃうわよ。早く起きなさい!」

 それは聞きなれた母親みゆの声だったんだ。神宮寺みゆ。小説家神宮寺のぼるの妻であり、俺の母親である。そんな冷静に説明している場合じゃなかったわ!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁっぁぁっぁあぁぁっぁっぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁっぁぁっぁあぁぁっぁっぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁっぁぁっぁあぁぁっぁっぁぁぁ」

 

 はっと目が覚めたんだけどさ。現実に戻された俺はベッドのシーツに新しい大陸の地図を描いていたんだよ。

 

 村人「勇者様、これが伝説の宝の地図ですか?」

 勇者マモル「どっからどう見てもおしっこだろ~がぁ!」

 

 シーツは生温かくぬれているしね。できたてほやほやのようだよ。

 って、またやっちまったー(おもらし)‼‼‼‼

 おもらし~、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼‼

 

「へぇー、高校生なのに未だにおねしょするってやばくな~い!」

「おねしょして悪かったなぁ!」

 なんて、ひとりごちたんだけど、え? 部屋に誰かいるの? どこからともなく声がしたような気がしてさ。注意深く部屋の周りを見渡したんだけど、誰もいないんだよ。

 

 母親みゆ以外のね。声が聞こえたような気がしたんだけど、気のせいだったみたいなんだ。もうね、起きたばかりって耳鳴りとかの怪奇現象ってあるよねって俺はほっとため息をついたんだよ。そしたら、

 

!」

 

 なんて、どこからともなく声が聞こえてきたんだよ。こりゃ、気のせいではないわ。今、変な笑い声が聞こえたじゃねぇーかよ。

「誰だ!」

 なんて、俺は声を荒げて周りを見渡したんだけどさ。誰もいないんだよ。起きたばかりで寝ぼけていただけだろうか。それとも単なる空耳だったのかもしれない。ただ分かっていることはね。本日、俺こと神宮寺マモルは、おねしょで目が覚め、ばつの悪い17歳の誕生日を迎えてしまったということだ。(`・∀・´)エッヘン!!

 

 はっきり言って俺は限りなくやばめのグレーゾーンにいる高校生だということ。敷き布団は黄色に染めあげたけどさ。グレーゾーンな黄色とでも言うのかな。何かもう自分で言うのもなんだけど、意味分からないわ自分。きっとおもらしして頭がてんぱっているんだろうよ。

 

 もうね、訳が分からなくなってきたよ。壁に掛けてある時計を見て俺は真っ青になったんだ。

 

第3話 もう嫌だを読む