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伝説の勇者なりきり部の奴ら:第4話 恋のはじまり

「じゃあ、わたしがマーくんのおとうさんのかわりになってあげるよ」

 

 と――



「え?」

 一瞬、何を言われているのかさ。何を言われたのか理解できなかったよ。

 

「じゃあ、わたしがマーくんのおとうさんのかわりになってあげるよ」

 俺はその言葉を一生忘れない。

 

「え? 本当に?」

 なんて、思わず俺はひかるちゃんに聞き返したんだ。

 

「だから、いつまでもないてなんかいないで元気だして、ね?」

 なんて、ひかるちゃんは優しく微笑んでね。慣れていない感じで片目をつぶってさ。俺に向ってウィンクしてみせたんだよ。ひかるちゃんの笑顔がまぶしくてね。そらまぶしくてさ。下手くそなウィンクだったけれどね。俺にとっては天使が舞い降りたように思えたんだ。

 ※個人の感想です。

 

「うん、ひかるちゃん、ありがとう♪」

 なんて、俺は鼻水を垂れ流しながらお礼を言ったんだよ。顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになったんだけどさ。これが男友達の前だったらドロ沼からでてきたドロ魔人かよとゲラゲラ笑われたかもしれない。

 

 でも、ひかるちゃんは決して笑わずにね。真剣に俺を受け止めてくれたんだ。そして、地面に無造作に置かれているバットを拾い上げてさ。

「じゃあ、やきゅうして遊ぼうか?」

 なんて、優しく言ってくれたんだ。

 

 ひかるちゃんのにぎっているバットは逆さまでね。きっと野球のやり方なんて知らないのにさ。そう言ってくれたことがとても嬉しかった。とてもありがたかったんだよ。何で持っていたのか定かではないんだけどね。ひかるちゃんがおもむろにつけ髭をつけてさ。

「えっへん! きょうからわたしがマーくんのおとうさんだぞ。よろしくね♪」

 なんて、父親っぽく演出してきたんだよ。その姿が妙にシュールに見えて俺は笑ったんだ。

 

「あははははは」

「あははははは」

「あははははは。つけ髭つけてやんの」

「あははははは。つけ髭つけるのはずかしかったんだぞ!」

「あははははは」

「あははははは」

 

 ひかるちゃんも笑ってね。2人して大きな声で笑ったんだ。ひかるちゃんの優しさは十分なほど伝わってさ。



 この瞬間から、星野ほしのひかるのことがになった。



 これは誰にどう思われようとね。決して色あせない俺の回想でさ。一世一代の愛のポエムなんだよ。そこで、え? と言わない! 頼むよ。昔の記憶だからね。多少美化している部分もあるかもしれないけどさ。



 この日を境に俺は父親のぼるの書斎に行かなくなったんだ。



 それは俺にとっての譲れない意地だったのかもしれない。父親のぼるの小説はね。俺から父親という存在を奪った恐ろしい魔物しょうせつに思えたんだ。だからもう父親のぼるの小説は読まないと誓ったんだよ。

 

 結局のところ俺は逃げたんだよ。厳密には逃げたというよりもさ。父親のぼるに対して自らの意志で心を閉ざしたんだと思うんだよ。過ぎ行く時の中で俺こと神宮寺マモルはね。少年から青年となっていたんだ。春夏秋冬と季節は流れていく。何かポエム風な言い方だけどさ。

 

 俺の趣味は誇大妄想とポエム作りだからね。認めたくないけれど父親のぼるの創作の血が流れているのかもしれない。




 小学3年生だった俺は高校2年生になっていた。




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 父親のぼるは1ヶ月前にさ。末期ガンで亡くなったんだけどね。亡くなる間際さ。父親のぼるの書斎に俺は呼びだされたんだよ。

 

「マモル、入りなさい」

 

 俺は無言のまま書斎のドアを開けてさ。書斎の中に入ったんだよ。書斎はね、俺にとってまるで別世界にきたように思えた。何せ7年もの間、父親のぼるの書斎に入ったことなんてなかったからさ。

 

 父親のぼるに対して何の感情も芽生えない状態でね。たぶん、父親のぼるに対して心を閉ざしていたんだと思うんだよ。父親のぼるがもうすぐこの世からいなくなることは体調を見ればさ。すぐに分かったんだよ。だからと言ってね。どうしていいか分からなかった。分からなかったんだ。

 

 けれども、そんな俺の感情とは裏腹にさ。父親のぼるは弱々しい口調で語りはじめたんだよ。

「マモル、マモルなのかい? お父さんはもうすぐいなくなるよ。この世界からいなくなるよ。末期ガンだからね。アハハ」

 もうね、いきなり父親のぼるからね。死ぬよ&末期ガンだと告げられて面食らったよ。俺は長いこと父親のぼると話していないことも手伝ってさ。

「あぁ、そう……」

 なんて、淡泊に答えてしまったんだよ。それでも父親のぼるは怯むことも動揺することもなくてね。

 

「マモル、ごめん、ごめんよ、ひとつ謝らないといけないことがある。私は間に合わなかった、間に合わなかったのだよ。あと残りわずかな時間では『はてしない英雄物語』を書き終えることができそうにない。物語が未完のままで終わってしまう。それは大変なことなんだ。大変なことなんだよ」



 俺の心は一瞬で凍りついたよ。謝ることってそれなのかよ。それなのかよ!



 長いこと俺をほっぽりだしてさ。小説を書くことだけを最優先にしてきた父親のぼるだったからね。2階の書斎から降りてきたかと思えばさ。

 母親みゆに「飯」とだけ言ってね。食べたら書斎にすぐ戻ってしまう日々を送っていたんだよ。お前は引きこもりかと何度も心の中で叫んだっけ。

 

 俺はそんな家族を見向きもしない、かえりみないさ。父親のぼるが大嫌いだったからね。だから謝ることがあると言われてさ。てっきり俺に構ってやれなくてごめんなと最後の最後に謝ってくれるのかとね。どこかで淡い期待をしていたんだよ。そんな風に謝ってくれさえすればさ。

 

 俺はそんなことはないよ、俺は大丈夫だったよ、平気だったよと今までの父親のぼるへのね。ありとあらゆる負の感情は全部水に流せたかもしれないのに……。



 それなのに謝ることってそれなのかよ!



 俺の感情は抑えれなくなる。

 

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめた。

 逃げちゃだめだ。

 

 小学生の頃、よくつぶいていた言葉だ。

 

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめだ。

 

 たぶんエヴァンゲリオンの影響を多大に受けているのだと思うんだよ。俺の中では碇シンジ=神宮寺マモルだからさ。逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだがね。リフレインしてくる。それは意識とは関係なく無限ループしている。必死で感情を制御しようとつとめたんだけどさ。

 

 今、ここで逃げたらもう父親のぼるからは2度と逃げることはできなくなる。何故なら、もう父親のぼるの生命のカウントダウンは残りわずかだから……。



 だから、逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃ――



 でも俺は結局弱くてね。いつまでも父親のぼるに対して根にもってしまう悪い息子だったんだよ。だから逃げようとした。また逃げようとしたんだ。父親のぼるの書斎からでようとしてさ。ドアのとってに手をかける瞬間、

「待て、マモル!」

 父親のぼるは俺に向かって叫んだんだ。俺の感情は頂点に達したよ。

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、もう嫌だ。あなたが謝らないといけないことってそれですか? 物語を最後まで書ききれないことなんですか? もっと謝ることってあるんじゃないんですか?」

 俺は涙がどっと溢れでていたよ。そしたら父親のぼるは立ち上がったんだ。

 

「あぁそうだとも、だって私は神様の祝福を受けた神様の子なのだ。私は神様と契約して書く能力をもらった。その時に神様と約束をしたのだ。物語を未完のままで終わらせてはいけないと。物語が未完で終われば大変なことが起こるだろうよと言われた。だからマモルに謝ったんだ!」

 

 なんて、逆切れ気味に言う父親のぼるの声は荒ぶっていたよ。俺はとうとう父親のぼるは気が狂ったと思ったんだ。

「狂いやがって……」

 俺ははきすてるように言うとね。もう一度、ドアのとってに手をかけたんだけどさ。

 

「マモル、待て! 信じられないかもしれないが、今の話は本当の事だ!」

 なんて、父親のぼるは言ってくるんだよ。表情はとても焦っているように見えたんだ。

「物語と現実をごっちゃにするんじゃねぇ。もうお父さんにはうんざりです!」

 俺は捨て台詞を残してね。書斎を飛びだしたんだよ。ガチャンとドアは勢いよく閉まる。

「マモルよ、マモルよ、待ってくれ!」

 

 廊下越しに父親のぼるの声が聞こえたんだけどさ。もうどうでもよかったよ。あなたが神様の子ならば俺も神様の子なのかよ。

 

 そんなわけねぇだろ! 小説と現実をごっちゃにするんじゃねぇよ!

 

 俺と父親のぼるのラストシーンはバットエンド。それはきがぬけたコーラのようにあと味が悪く、まずかった。以上が俺と父親のぼるの回想です。




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 ひかるちゃんのほのかなシャンプーのにおいが漂う。手を合わせていた俺の目は見開いた。ずいぶんと長い回想に思われたんだけどね。ひかるちゃんからしたらさ。ちょっといつもよりさ。長く手を合わせていたぐらいにしか見えなかったようだ。走馬灯ってそんなものだよね。

 

「さぁ、マーくん、学校行きましょ?」

 ひかるちゃんは微笑んだ。

「ひかるちゃん、俺を救ってくれてありがとう」

 俺は小学3年生の頃の回想と現実がオーバーラップしてさ。俺はひかるちゃんの手をにぎりしめたんだよ。

 

「え? マーくん、わたし何もしてないよ」

 何が何だか分からないという感じでね。ひかるちゃんは困り顔になったんだ。でも、ひかるちゃんの顔がさ。うっすらと顔が赤くなっているような気がしたんだよ。困っているひかるちゃんも可愛いしね。恥ずかしがっているひかるちゃんはなおも可愛い。何か良い雰囲気になってきていると思っていたらさ。



「マモル、あんたまたおねしょしたでしょ!」



 そこへ母親みゆがね。俺のぬれぬれのパンツを手に持って登場してきやがった。

 

第5話 年齢=彼女いない歴を読む