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伝説の勇者なりきり部の奴ら:第9話 待てってば

 俺は突然の大声に驚いてね。

「ひゃッ」

 と悲鳴を上げたんだよ。

 

 突然背後からでかい声をだされた日にはさ。誰だって驚くだろ。俺は恐る恐る背後を振り向いたんだけどね。

「マーくん、何でここにいるの?」

 とひかるちゃんが背後から乱入とうじょうしていたんだよ。もうね、何で俺がここにいるのか分かんないという感じの眼差しでさ。ひかるちゃんは俺を見ているんだよ。

 

 ここにいるのは同じクラスになったからでしょーが! と俺は言おうとしたんだけどね。ひかるちゃんは、そんな隙を俺に与えなかったんだよ。

「うわぁ……クラス間違えた!」

 とつぶやいたらさ。ひかるちゃんは素早く教室をでて行こうとしたんだよ。俺はでて行こうとするひかるちゃんにね。

 

「待てよ」

 と呼びかける。

「嫌」

 と言うなり、でて行こうとするひかるちゃん。

 

「待っててば」

「待たない」

「ひかるちゃん行かないで」

「マーくん、さよなら」

 何だこの待てよからはじまる意味深なやりとり!

 

 俺はいきなりひかるちゃんからさ。驚かされて思考がテンパってしまったのもあってね。幼なじみだけで通じ合うさ。何となく伝わるニュアンス会話モードで話してしまったんだよ。

 

 もうね、他人には話が分からなくてもね。俺たちだけならニュアンスだけで意味通じるみたいなさ。それは長年連れ添った夫婦関係の夫が玄関開けて、

 

「ただ(ただいま)」

 妻が夫を出迎えて、

「おか(おかえり)」

 夫が一言。

「め(めし)」

 というような、何となく主語述語省略してしまっても意味通じるみたいなね。ネットゲームのチャット文字的な関係とでも言うのかな。

 

 もちろん、落ちるねむる時は、

「おつつ」

 でログアウトみたいな。

 

 このニュアンストークがクラスからはさ。俺とひかるちゃんの別れ話のもつれに見えたらしくてね。ちょっとした騒ぎが勃発してしまったんだよ。

「おいおい、朝っぱらから昼メロかよ」

 聞こえよがしに俺に向って言う男子たち。

 

 そこの男子! 勘違いしないで~。戸惑う俺だったんだけどさ。ひかるちゃんは案の定、周りからね。別れ話のもつれに思われたことに気づきもしないんだよ。

 

 俺がおろおろしている隙を見計らってさ。突然、走りだすひかるちゃん。

「あっ!」

 俺は思わず叫んでしまったよ。行ってしまうひかるちゃんに唖然とする俺。

「さよなら、マーくん」

 まるで俺……。

 

「おいおい、振られる現場見ちゃったよ」

 聞こえよがしに男子たちはね。俺が言わんとしていた事を代弁してきたんだよ。そう、まるで今俺が振られたみたいに周りに思われてしまったぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 走りだしたひかるちゃんはさ。どんどんいなくなっていく。何だこの失恋ソングのミュージックビデオなやりとり!

 

 しかもひかるちゃん、走るの早えーよ。全国大会狙えるんじゃねぇの。クラス中は男女の別れの瞬間を目撃したようにね。好奇の目で俺とひかるちゃんを見ていたんだよ(もうひかるちゃんはいないけど)。

 

 クラス中の俺を見る視線が突き刺さるようで痛くてさ。

「ちょっと追いかけなくていいの。このままだと2人の関係は終わっちゃうよ。女の子はね、こういう時は追いかけて欲しい生き物なのよ」

 なんて、まるで恋愛スペシャリストでもあるかのようにね。もっともらしく語りはじめる女子がいたんだよ。

 

 何だこの恋愛ドラマ的な展開は! でもよくよく考えればさ。ここがひかるちゃんのクラスだと教えるためにね。俺は追いかけないといけないわけでさ。そんなことを思っているとね。

」「」「」「

 クラス中から追いかけろコールが沸き起こったじゃねーか。しかも手拍子つきでさ。びっくりしたよ。

 

 こんなクラスの一体感は嫌だぁ~あるあるがあったらね。俺は真っ先にこんなクラスの一体感が嫌だぁ~と叫ぶことだろうよ。追いかけろコールがなくてもさ。俺は教室を飛びだしたひかるちゃんを追いかけるつもりだったんだよ。

 

 ひかるちゃんを追うために走りだそうとしたらさ。そこへ運悪く担任山田が登場したんだよ。

「君、どこへ行く? 私はこのクラスの担任になる山田だ。席に座りたまえ」

 担任山田の正論ジャスティスが教室内で響き渡ってね。

「は~い、そうします」

 と俺はしかたなく返事をしたんだ。もうね、ひかるちゃんを追いかけることもできずに席につくしかなかったんだよ。

 

 確実にクラス中から失望の的ざんねんなおとことして俺は見られていると感じたんだけどさ。担任山田は体育教師でプロレス同好会の顧問なんだよ。逆らうとどうなるか俺は痛いほど知っているからね。ある者は卍固めをかけられ、ある者は山田オリジナルスペシャルラリアットをやられたりしたんだよ。

 

 もうね、若者諸君! 恐怖政治あらくれもののせかいの恐ろしさが何たるかが分かっただろうよ。

「これだからお子さま男子はだめなのよね。包容力がないのは致命的だわ。残念無念なお・と・こよね」

 と聞こえよがしにいう女子。

 

 だからお前はそもそも恋愛スペシャリストなのかよ。ここは少女漫画で知った知識お披露目会じゃねぇんだぞと言ってやりたい(言わないけど)。そんな俺も男女の恋愛のイロハはだいたいラノベで教えてもらったラノベ産恋愛スペシャリストさ。自称、歩く愛の教典ザビエルだ。だから俺も何も言えないんだよ。



 少女漫画もラノベもいっしょだろと突っ込まれたらそれまでなので――



 それにいなくなってしまったね。ひかるちゃんのことが心配だしさ。宇宙レベルで考えれば、どいつが恋愛スペシャリストなんてどうでもいいことなんだよ。恋愛小説家が実は私生活では恋愛とはほど遠い人格の持ち主だったという映画があるぐらいだしな。ジャック・ニコルソン主演の恋愛小説家とかぼそり。

 

 だから俺はひかるちゃんをひたすら待つしかない状況下におかれたんだ。こうしてひかるちゃん失踪事件が勃発してしまったんだけどさ。担任山田は淡々と出席簿を読み上げてね。

星川ほしかわひかるはどこへいった? 新学期早々欠席か。まことにけしからん」

 と頬を膨らませたんだよ。推定年齢四十五歳の男性体育教師。プロレス同好会顧問。担任山田の頬を膨らませる姿はさ。中年男性が女装をして街中を歩くぐらい衝撃的な光景に思えたよ。

 

 俺はプププと笑いそうになったんだけどね。クラスはそんなことよりも俺とひかるちゃんのこれから先の展開こいものがたりが気になっていたみたいでさ。

「別れ話のもつれで欠席かぁ。それもこれもここにいる男子じんぐうじまもるが原因なんだけどねッ!」

 と思いっきり恋愛スペシャリストを装う女子に指差されたんだ。挙句の果てにはね。そのような目で俺はクラス中から見られてしまったんだ。

 

 何なんですか! この緊張感ある空気は。ジロジロ他人から見られているという感覚って何なんだよ。有名人がパパラッチに追われて逃げ惑う気持ちがやっと分かったよ。

 

 好奇な目で見られるってはっきりいってうざすぎるわ!

 

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめだ。

 逃げちゃだめだ。

 

 俺は逃げだしたい衝動に襲われたんだけどさ。必死に逃げだしたいのをこらえたんだよ。逃げるな俺。踏みとどまれ俺。みたいな感じでね。

 

 そんな俺の葛藤はさ、果てしなく続いていくかのように思われたんだけどね。恐る恐るひかるちゃんが教室に入ってきたことにより、クラス中から、

「「「「「おぉぉー!」」」」」

 と、うなり声のような歓声が響き渡ったんだよ。

 

 学年が変わり、見知らぬクラスメイトたちがはじめて集う教室でさ。この一体感は異常な光景に思えたよ。もうね、変な洗脳集団かと思ったよ。

 

 ひかるちゃんはもじもじしながらね。

「わたし、やっぱり戻ってきちゃった。マーくん? さよならじゃなかったね。マーくんといっしょにいていいよね?」

 といたずらっぽく舌をだしてきたんだよ。

 

 ひかるちゃん、だから全員の前でもニュアンスでしゃべるな、しゃべるな。まるで俺たちが復縁したように思われるじゃねぇかよ。すでにクラス中でそう思われてるぽいけどさ。ひかるちゃんのニュアンス語録を訳すとね。

 

 わたし、やっぱり戻ってきちゃった。

 

 

 マーくん? さよならじゃなかったね。

 

 

 マーくんといっしょにいていいよね?

 

 

 の意味であることは俺には分かるんだよ。けれども世の中にはそう受け取らない人たちがいることもお忘れなく。恋愛スペシャリストを装う女子がさ。冷たい目線を俺に送ってくるからね。俺はその女子と目が合ったんだどさ。さっと目をそらしたんだよ。

 

 歯ぎしりしはじめる女子。俺はそ知らぬ顔をしたんだけどね。ガタガタガタと歯ぎしりがさ。尋常じゃないほど聞こえてくるんじゃないかと思うほど悔しがる女子なんだよ。俺はさらにそ知らぬ顔を決め込んだんだけどね。

 

「ちょっとあなた何とか言いなさよ!」

 とうとう女子はいきり立ち、思いっきり口にだして俺を指差しやがった。

 

第10話 女優のようにを読む