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伝説の勇者なりきり部の奴ら:第20話 はてしない英雄物語

「分かったから蹴るんじゃねぇ」

 なんて、文句を言ったんだよ。そしたらね。

「私は蹴ってなどいない。出口まで瞬間移動させてやったんだ」

 悪びれる様子のない姫野愛ひめのあい。今時、思いっきり蹴っていいのはサッカーボールぐらいだろ。何て奴なんだ姫野愛ひめのあい

「そういや神宮寺、よく見たらサッカーボールみたいだな」

 なんて、姫野愛は悪そうな表情で言ってきやがった。だから、俺の心を読むな、読むな。

 

「お腹空いた~、お腹空いた~、お腹空いた~」

 なんて、ひかるちゃんはさ。絶賛ぐずりはじめているんだよ。目覚まし時計のように「お腹空いた~」が鳴り響いていくんだよ。どんだけお腹空いてんのよ、ひかるちゃん。俺はひかるちゃんに優しい眼差しを向けるとね。

「ひかるちゃん、分かったから早く家に帰ろう」

 って言ったんだよ。

「うん、うん、マーくん、分かった~。お腹空いたよ~」

 やっとこさ、ひかるちゃんも落ち着いたようでね。

 

 結論として言わせてもらうんだけどさ。姫野愛ひめのあいは凶暴である。ひかるちゃんはくいしん坊である。そして俺はね、そんな2人に振り回される奴隷である。マジ奴隷は勘弁だわ。




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 俺たちは徒歩で他愛もない会話を繰り広げながらさ。一部、姫野愛ひめのあいからは、いわれなき暴力を受けたんだよ。俺は何とかへらへらしながらかわしつつ、無事に俺の家に到着したんだ。意外とごくごく普通の住宅街に俺の家はあります。



「へぇー、ここが神宮寺の家なんだぁ。いい感じの家ね」

 白々しく姫野愛ひめのあいは俺ん家初体験風を装うんだけどね。俺の部屋に不法侵入したあげくにさ。

「へぇー、高校生なのに未だにおねしょするってやばくな~い!」

 なんて、俺が一番気にしてること言っただろーが。女って怖いよ。姫野愛ひめのあいみたいにね。平然と嘘がつけるのだから……。姫野愛ひめのあいは俺を睨むように見るとさ。

 

「何か文句言いたげだな。奴隷の分際で!」

 なんて、指をぽきぽき鳴らしながら言ってくるんだよ。姫野愛ひめのあいの殺気を素早く感じた俺はね。

「何でもありましぇ~ん(とんでもない奴だな)」

 なんて、舌をだしてごまかすしかなかったんだよ。マジ姫野愛ひめのあい危険人物だわ。人の心の中を勝手に読むしな。

 

「ねぇ? ねぇ? マーくん家のドア開いてるよ~」

 なんて、ひかるちゃんが俺の家のドアを指差したんだけどさ。俺もドアが180度開かれているのを確認してね。

「無用心だな。ドア開けっ放しなんて何かあったのだろうか」

 なんて、つぶやいたんだよ。もうね、玄関のドアが開いたままになっているっておかしいでしょ。

 

 鍵を閉め忘れるとかなら分かるけどさ。ドアが開いたままというのがどうにもこうにも不自然すぎるんだよ。まぁ、考えていてもらちがあかないのでね。俺らは玄関の中に入ったんだ。

 

「ただいま~」

「「おじゃましま~す」」

 いつもだったら母親みゆからさ。

「おかえり~」

 なんて、声があるはずなのに返事がないんだよ。どうしたんだよ母親みゆ! 朝の俺のおねしょがよっぽどショックでプチ家出? 

 

 まさか、まさかね。姫野愛ひめのあいの冷めた目線が俺に突き刺さってくるんだけどね。俺はそれをハエでも振り払うようにさ。

「ただいま~」

 なんて、もう一度言ったんだよ。あれ? 反応がないぞ。よし、3度目の正直だ。

「ただいま~」

 いくら言っても母親みゆから返事はなかったんだよ。

 

「あれ? マーくんのお母さんってでかけてるのかな?」

 ひかるちゃんは周りをキョロキョロしながら靴を脱いでいるんだけどね。もうね、まるで小動物のようなんだよ。ひかるちゃん可愛い~。可愛いすぎるよ~。

 

 母親みゆがでかけているとしてもね。ドアが開けっ放しはあり得ない。それじゃあ空き巣ウエルカム状態じゃん。まさか泥棒や強盗のたぐいが進入? だんだん心配になった俺はさ。

「おーい! 誰かいないのか~? ママリン~?」

 なんて、叫んだんだけどね。どこからも返事がないんだよ。ひかるちゃんも姫野愛ひめのあいもさ。ちょっとこれってやばくねみたいな視線を俺に送ってくるんだよ。特に姫野愛ひめのあいなんかはね。

 

「ママリンって……受けるんだけど」

 なんて、ひとりごちると汚物でも見るような目つきで俺を見てくるんだ。もちろん、俺はハエを振り払うように手をパタパタさせたんだけどさ。もうね、まさか、まさかね。何かあったのかと本気で不安を感じているとね。

 

「おい神宮寺、とりあえず私の靴を脱がせろ!」

 姫野愛ひめのあいは無表情のまま言い放ってきやがったんだよ。

「それぐらい自分でやれ!」

 俺はそれどころではないので言ってやったよ。TPOわきまえろ。空気読めよ。

 

 いつもだったら靴脱がせろなんて言われた日にはさ。靴を脱がせるついでに足を触ったりね。靴のにおい嗅いだりさ。いろいろとね、ぐふっ……。つーか俺マジ変態じゃねぇか!

 

 姫野愛ひめのあいはさ。そうだ、そうだともお前は変態だよ。生まれ持った変態だよと言わんばかりの冷めた目で俺をいちべつするとね。

「奴隷の分際で口答えするとは十年早いわ!」

 なんて叱咤しつつもね。渋々自分で靴を脱ぎ捨てたんだ。しかもそこらへんにひょいっとほうり投げる感じに――

 

 おいおい姫野愛ひめのあい、人様の家にきたんだからある程度のマナーぐらいちゃんとしてくれよ。まぁ、ひかるちゃんにしてもそこらへんに靴を脱ぎ捨てているからさ。ひかるちゃんの手前、姫野愛ひめのあいにだけ強く言うことはできなかったんだけどね。

 

 もうね、俺はつくづくひかるちゃんに弱いんだよ。結局俺はひかるちゃんの裏返った靴をね。オセロみたいにひっくり返してきれいに並べてさ。ひかるちゃんの生暖かいぬくもりを感じつつね。姫野愛ひめのあいの靴も並べようと靴を手に取ろうとするとさ。

 

「おもッ!」

 なんつー重い靴を姫野愛ひめのあいは履いているんだよ。俺はオリンピックとかに出場する重量挙げ選手のようにね。両手で姫野愛ひめのあいの片方の靴を持ってさ。並べるはめになってしまったんだよ。

 

「神宮寺、だいぶ奴隷らしくなってきたな」

 なんて、姫野愛ひめのあいは満足げに言うんだけどね。

「そこ誉めるポイントじゃねぇだろ。全然嬉しくないわ。誰が奴隷だよ!」

 もうね、そんな風に言われて喜ぶ奴いないだろ。

「どっからどう見ても、生まれ持っての奴隷だろ」

「うるさい、うるさい、うるさい、姫野愛ひめのあい。しかもよくあんな重い靴を履いて歩いてるよな。びっくしたよ」

 なんて、俺は驚きを隠せないで言ったんだよ。

 

「それは神宮寺が軟弱すぎるからだろう」

 なんて、姫野愛ひめのあいは言うとね。姫野愛ひめのあいは自分のかばんを俺に向かって放り投げてきたんだよ。俺はとっさにかばんを受け取ろうとしたんだけどさ。

「おもッ! そして、いたッ!」

 あまりにも重くてね。かばんを落としてしまったよ。しかも落ちたかばんが足に直撃してしまったんだ。

 

「将軍様のかばんだ。大事に扱え!」

 なんて、姫野愛ひめのあいは奴隷の主のように語気を強めて言ってきたんだけどさ。

「お前は重量挙げ選手か! なんつー重いかばんを持ち歩いてるんだ」

 俺はぶつぶつと姫野愛ひめのあいに対して文句を言いつつもね。改めてとんでもない奴だと認識したんだ。

 

 何せ、鉛のように重い靴を履いてさ。鉄の塊のような重いかばんを持ち歩いてだよ。何事もなかったように歩いていたからね。もうね、明らかに最強キャラでしょ。しかも俺に蹴りを入れてきた時なんてさ。そんな重たい靴を履いていると思わせない衝撃で蹴りやがったからね。

 

 つまりは寸止めに近い形で蹴ったということ。しょせんは手加減されていたに過ぎないということ。俺は姫野愛ひめのあいと戦ったら即やられてしまうだろうよ。俺の前世、スライムのような気がしてきたわ。改めて姫野愛ひめのあい、恐るべしだと感じたんだ。

 

 一方、ひかるちゃんはと言うとさ。さすが幼馴染って感じでね。もうね、まるで第2の故郷ならぬ第2の自宅にやってきたみたいな感じでさ。そそくさとリビングに勝手に行ってしまうとね(勝手に行ってしまうところがひかるちゃんクオリティ)

「マーくんのお母さんみ~つけた♪」

 なんて、はしゃいでいるひかるちゃんの声が聞こえてきたんだよ。

 

 さては俺の誕生日サプライズでさ。実は家にいないと思わせといてね。実はリビングにいました~みたいな驚かそうって魂胆だな。ぐふふふ。すでにひかるちゃんがリビングに母親みゆがいると発言した時点でサプライズも何もぶち壊しなんだけどさ

 

「俺の誕生日だからってそんなサプライズいらないよ。まったく……」

 俺は照れながらも意気揚々とリビングに入ったんだよ。続いて姫野愛ひめのあいも入ったんだけどね。リビングのテーブルには美味しそうな料理の数々が並んでいてさ。テーブルの椅子に母親みゆが腰かけていたんだよ。

 

「いるならいるって言ってくれよ」

 なんて、俺は母親みゆに話しかけたんだけどね。母親みゆは微動だにせず何もしゃべってこないんだ。まるでろう人形もしくは、はく製のように動かないんだよ。

 

「マーくんのお母さん、どうしちゃったの?」

 ひかるちゃんは不思議そうな眼差しでさ。母親みゆを見ているんだよ。俺だってね、これ何なの? どうしたの? って感じで母親みゆを見たんだけどさ。妙な胸騒ぎのようなものが押し寄せてきたんだよ。

 

 そこへ目を細めた姫野愛ひめのあいがね。

「どうやらここは危険なようだ。魔王が現れたみたいだ」

 なんて、淡々と言ったんだよ。もうね、本当にあっけないぐらい淡々と……。お前、絶対最強キャラだろ。

 

「魔王が現れたって何だよ。意味分かんねぇよ」

 俺は思わず姫野愛ひめのあいに問いかけたんだけどね。姫野愛ひめのあいはちらりと俺を見るとさ。

「あぁ、そういえば神宮寺の父上の死亡により未完の『はてしない英雄物語』が呪われ、魔王復活の兆しがあるって言ってなかったよな」

 なんて、さらりと言ってのけてきやがったんだよ。

 

「何じゃそりゃ? そんな話、初めて聞いたわ」

 俺は語気を強めて姫野愛ひめのあいに向かって言ったんだ。

 

第21話 挑戦状を読む