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伝説の勇者なりきり部の奴ら:第25話 世界中の誰よりも大好きです

 俺はどうして石化が解けたかは分からない。けれども俺は立ち向かうだけだ。母親みゆを石化し、ひかるちゃんを石化した魔王ハンプティを絶対に許さない。俺は無言のまま魔王ハンプティに近づいていったんだけどさ。正直、意識はもうろうとしているしね。何だろうこの感覚って感じなんだよ。

 

 のらりくらりと近づく俺に対して冷静さを取り戻した魔王ハンプティはさ。

「また石化すればいいだけだよ。グヒヒ」

 なんて、つぶやくとね。

「―●―【転がる石のようにコロコロとなーれい】―●―」

 と呪文を唱え、俺に触れようとしてきたんだ。俺はさらにだんだんと意識がもうろうとしてきたからさ。もうね、避けるとか、逃げるとか、めちゃくちゃ面倒だったんだよ。

 

 魔王ハンプティは俺に触れるとね。勝ち誇ったような笑みを浮かべたんだ。

「オラに逆らうとこうなるだよ。魔界に連れて行って、お仕置きするだよ。グヒヒ」

 なんて、興奮しながらしゃべってくる。もうね、魔王ハンプティは面倒くさい奴だなって思ったよ。俺は何かもうどうでもよくなってね。

 

 なすがままに魔王ハンプティに触られた状態だったんだよ。しかも、みるみる石化していくかと思いきや石化にはならないんだよ。

「バ、バカな。石化にならないだと!」

 魔王ハンプティは驚愕しているだけどさ。そんなオーバーに驚くことじゃないっしょと俺は思いながらね。

 

「自分でもよく分からないんだよね。だんだん意識がもうろうとしてくるし……何なんだろうね。この感じ?」

 なんて、気だるそうに俺は言ったんだよ。魔王ハンプティは真っ青な顔になるとさ。

「まさか神宮寺マモルの股間にぬれているのは聖水なのか……」

 なんて、声を震わせながら言ってくるんだよ。

「さぁ、分からんねぇ。単なるおしっこじゃね?」

 なんて、さらに気だるそうに俺は言ったんだよ。

 

 本格的にだんだん意識がもうろうとしてきてね。もうしゃべるのも面倒になってきたんだよ。俺は魔王ハンプティが俺の身体を触っているので面倒だけど振り払ったんだ。



 ボキッ!



 鈍い音がしてさ。とかげのしっぽが切れるみたいに簡単に魔王ハンプティの腕が折れたんだよ。

「うぎゃー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

 なんて、魔王ハンプティは悲鳴をあげて地面を転げ回っているんだよ。俺はそれを見ても何も感じない。厳密には感じることができない状態なのかもしれない。ただ、魔王ハンプティの腕を振り払った時にね。自分の手が見えたんだけどさ。それはそれは、まばゆい光を発していたよ。

 

 何で光っているんだろう? 俺はホタルか! つーかそんなことを思うことも面倒になってきたんだよ。俺の意識はもうろうとしてどこかへ行ってなくなっていくような気分になる。俺の身体全体がまばゆい光が発していく。何なんだろう、この光……。何なんだろう、このまばゆい光……。



 ただ、

 

 俺は死んでもいい。

 ひかるちゃんを守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。

 俺を育ててくれた母親みゆを守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。守りたい。救いたい。

 

 それだけだった。俺の願いはそれだけだった。

 本当にそれだけだった。

 他には何もいらなかった。

 本当に俺の願いはそれだけだった。

 

 魔王ハンプティの悲鳴が聞こえてきたんだけどね。

「神宮寺マモル、やめてくんろ、やめてくんろ、お願いだから、やめてくんろ」

 なんて、叫んでいるようなんだよ。きっと俺が魔王ハンプティに何かしているのだろうよ。俺の意識はもう吹っ飛んでいてさ。自分がどんな状態なのかさえ分からなかった。どんなことを魔王ハンプティにしているのかさえ分からなかったんだよ。

 

 最後に魔王ハンプティから聞こえてきたのはね。

「助けてくんろ……、うげッ」

 だったんだ。俺は次第に意識がなくなっていく。まるで無の状態にでもなっているかのようにさ。ぷっつりと意識がなくなったんだよ。




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 どれくらい意識がなくなっていたのだろうか。どこからともなく声が聞こえてきたんだよ。

「神宮寺、奴隷の分際で寝ている場合か。起きろ!」

 なんて、聞こえるなりね。俺は姫野愛ひめのあいに足蹴りされて目を覚ましたんだよ。辺りを見渡すとさ、俺の家にいるんだよ。母親みゆとひかるちゃんは石化したままとなっていたんだ。俺は目をこすりながら、

 

「あれ? 魔王ハンプティは?」

 なんて、姫野愛ひめのあいに尋ねるとね。

「残念ながら神宮寺が倒してしまったようだ」

 なんて、本当に残念そうに姫野愛ひめのあいは言ってきたんだよ。

「残念じゃねぇよ。喜ばしいことじゃねぇか!」

 というか、俺が魔王ハンプティを倒したなんてマジかよって思ったよ。そんな俺の動揺をお構いなしに姫野愛ひめのあいはさ。

「私は喜べない。本来なら私が倒すはずだったわ」

 なんて、キィーと俺を睨んできたんだけどね。相変わらず負けん気の強い奴だと思ったよ。それはそれでいいとしてさ。

 

「何で石化したままなのよ?」

 なんて、言って俺は石化している母親みゆとひかるちゃんを指差したんだ。姫野愛ひめのあいは神妙な面持ちでね。

「それはいきなり石化を解いてこのありさまを何て説明すんだ。うまい具合に2人の記憶を消さないとやばいだろ。お前が神様の子だとばれるんだぞ!」

 なんて、言ってくる。

「それはまずいな」

 すんなりうなずく俺。私の言っていることは正しいだろうと自信満々な姫野愛ひめのあい

 

 結局、俺と姫野愛ひめのあいは今後の方針について話合うことになったんだよ。しばし談合は続いていき、時間は流れていく。その間に俺はおねしょで制服のズボンがぬれぬれでさ。気持ち悪かったのでシャワーを浴びて普段着になったんだよ。

 

 結論としてね。姫野愛ひめのあいが母親みゆとひかるちゃんの石化を解いてさ。いい感じに記憶を書き換えるらしいということになったんだ。どんな記憶に書き換えるかは定かではないとしてね。

「じゃあ姫野愛ひめのあい、あとはよろしく!」

 なんて、俺は他力本願な感じで言ったんだよ。

 

「ふむ」

 と姫野愛ひめのあいは腕を組みながらうなずいてさ。まずは母親みゆの石化を解いたんだよ。狐につままれたような表情でね。目を覚ました母親みゆは俺を見るなり、

「マモル、お誕生日おめでとう♪」

 なんて、優しく微笑んだんだ。姫野愛ひめのあいはそれを見届けるといきなり母親みゆのおでこに手を当ててさ。

 

「―●―【魔王ハンプティのことはなかったことに】―●―」

 なんて、呪文をつぶやいたんだ。

「あっ!」

 と母親みゆは声をだすと気を失ったからね。俺と姫野愛ひめのあいでリビングにあるソファーに運んで寝かせることにしたんだよ。

 

「本当にこれで大丈夫なのか?」

 俺は不安になり姫野愛ひめのあいに尋ねたんだけどさ。

「大丈夫だ、問題ない!」

 なんて、姫野愛ひめのあいは自信満々で言い放ったんだよ。続いて姫野愛ひめのあいはひかるちゃんに近づいてね。もっともらしく指先で弧を描くとさ。

「―●―【転がる石のようには絶対になりませんわ】―●―」

 なんて、呪文を唱えたんだよ。しかし何も起こらない。

 

「あれ? おかしいな。おかしいな」

 なんて、姫野愛ひめのあいはぶつぶつとひとりごちているんだよ。

「おい、姫野愛ひめのあい、どうしたんだ。早くひかるちゃんの石化を解いてやれよ。ひかるちゃん、可哀想だろ」

 俺はひかるちゃんが心配だから言ったんだよ。姫野愛ひめのあいはうなずくと、また、

「―●―【転がる石のようには絶対になりませんわ】―●―」

 なんて、呪文を唱えたんだけどね。ひかるちゃんは石化したままだったんだよ。一体全体どういうことよって、俺が不振に思いながら姫野愛ひめのあいを見るとさ。

 

「くっ! これでまた私のチート能力打ち止めか。さっきの魔王ハンプティの戦闘後、また回復したと思ったんだけどな」

 なんて、ぶつぶつと言ってるんだよ。チート能力打ち止めってどういうことよ。

「どうしたんだよ? 早くやれよ?」

 なんて、俺はあおったんだけどね。姫野愛ひめのあいは逆切れしてきてさ。

 

「うるさい、うるさい、うるさい! そもそも何で私が手取り足取りやってやらないといけないんだ。私はもう疲れた。そんなに石化を解きたいなら神宮寺がやれ。奴隷の分際で私を頼るな。さっきの戦闘で汗だくだからシャワー浴びてくる。あとは自分で何とかしろ!」

 なんて、俺を睨みつけて言ってきやがったんだよ。そして、ぷいっと俺に背中を向けると本当にシャワーを浴びに行きやがった。もうね、勝手に人ん家の風呂を借りてどういう神経してるんだよ。

 

 取り残された俺はね。石化したひかるちゃんを見つめていたんだ。俺はここに誰もいないことをいいことにさ。石化したひかるちゃんに近づいたんだよ。普段は面と向かって恥ずかしくて言えないけどね。今なら素直に自分の気持ちを語れるような気がしたんだ。

 

「ひかるちゃんのことをずっと大切に思っていました。これからもずっとひかるちゃんのことを守りたい。ひかるちゃんを誰よりも幸せにしたい。ずっといっしょにいたい。ひかるちゃんのことが世界中の誰よりも大好きです♪」

 

 俺はそう告白するとさ。目を閉じてひかるちゃんの石化している唇にそっとキスをしたんだ。俺のファーストキスは石化しているひかるちゃんだったんだよ。その唇は石のように硬かった。だって、石化してるからね。けれども俺は至福の時を感じることができたんだよ。硬くてもひかるちゃんはひかるちゃんなんだよ。俺にとって大切なのはひかるちゃんだからさ。

 

 あれ?

 

 あれれ?

 

 何かおかしいな。何かおかしいぞ。

 

 硬い唇がだんだん柔らかくなっていくんですけど。それってどういうことよ。

 

「ん、んぐっ……」

 なんて、ひかるちゃんのなまめかしい吐息が聞こえてくる。目を開けると元通りの姿になっているひかるちゃんがいて、俺は生身のひかるちゃんと正真正銘のファーストキスをしていた。



 俺は慌ててひかるちゃんから離れる。お互いに顔は真っ赤になっている。もう言葉は何もでやしない。



 ただ、俺とひかるちゃんは見つめ合っていた。

 

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